愛媛大学代数セミナー

2023年度の講演予定・講演記録

  • 第98回 : 2024年3月29日 (木) 16:30--17:30
  • 場所 : 愛媛大学理学部2号館(数学棟)2階 大演習室(201) (対面開催のみ。参加をご希望の方は直接現地にお越しください。)
  • 講演者 : 木村 昭太郎(早稲田大学)
  • 題目 : 保型微分方程式と不変式論
  • 概要 : 保型微分方程式とは、解空間がモジュラー不変性を満たす微分方程式である。金子、Zagier氏らにより、楕円モジュラー形式に対する保型微分方程式(Kaneko-Zagier方程式)が導入された。 この方程式の多変数モジュラー形式への一般化が、正則ヤコビ形式の場合が喜友名氏により、歪正則ヤコビ形式の場合が講演者によって与えられている。これらは頂点作用素代数の分類や、楕円種数などへの応用がある。一方、有限群の不変式とモジュラー 形式の間に対応があることが知られている。特に、いくつかのユニタリ鏡映群の不変式環は楕円モジュラー形式環と同型になる。
    本講演では上で述べた同型を用いてKaneko-Zagier方程式の不変式環における対応物(不変微分方程式)を考察する。不変微分方程式の斉次多項式解のほとんどは超幾何関数を用いて記述できることがわかる。更に、これらを用いて上で述べたモジュラー形式に対する保型微分方程式のモジュラー形式解を構成できることを紹介する。
  • 第97回 : 2024年1月18日 (木) 17:00--18:00
  • (通常と曜日・時間が異なりますのでご注意ください)
  • 場所 : 愛媛大学理学部2号館(数学棟)2階 大演習室(201) (対面開催のみ。参加をご希望の方は直接現地にお越しください。)
  • 講演者 : 森田 英章(室蘭工業大学)
  • 題目 : 組合せ論的ゼータ函数の表示式について
  • 概要 : 組合せ論的ゼータ函数とは、これまで離散構造に対して考えられてきた諸々のゼータ函数を統一的に扱うことを可能にする枠組みとして定義された。それはある種の有限性をもつ力学系ゼータとして定義され、その定義式を含め一般に三種類の表示式、「指数表示」・「オイラー(積)表示」・「橋本表示」をもつ。この講演では、これら三種の表示の関係について述べ、既存の具体例が組合せ論的であることを紹介する。さらに、組合せ論的ゼータは第四の表示式「伊原表示」をもつ場合もある。例えば、グラフゼータ函数などがその例である。グラフゼータ函数の伊原表示は、現在、量子ウォークや結び目理論との関連が指摘され、注目を集めつつある。時間が許せば、これらの話題についてもその概要を紹介する。
  • 第96回 : 2023年12月1日 (金) 16:30--17:30
  • 場所 : 愛媛大学理学部2号館(数学棟)2階 大演習室(201) (対面開催のみ。参加をご希望の方は直接現地にお越しください。)
  • 講演者 : 星 明考 (新潟大学)
  • 題目 : Norm one tori and Hasse norm principle
  • 概要 : 代数体の拡大K/kに対して,至る所局所ノルム元によってKからの大域ノルム元が復元されるとき,Hasse norm principle (HNP)は成立すると言う.またそれらの隔たりを表す群はHNPへのObstruction (Obs)と呼ばれる.実際に,Hasse (1931)はK/kが巡回拡大の場合に,HNPは成立することを示した.K/kがガロア拡大の場合には,Obsに対するTate cohomology H^{-3}を使ったTateの公式(1967)がよく知られている.この講演では,拡大次数[K:k]が15以下の(非ガロア)拡大K/kに対するHNPへのObsの計算をK/kのガロア閉包のガロア群Gの分解群の言葉で実現した結果の紹介を行う:
    A. Hoshi, K. Kanai, A. Yamasaki,
    [HKY22] Norm one tori and Hasse norm principle, Math. Comp. (2022).
    [HKY23] Norm one tori and Hasse norm principle, II: Degree 12 case, JNT (2023).
    [HKY] Hasse norm principle for $M_{11}$ and $J_1$ extensions, arXiv:2210.09119.
    小野孝先生の結果(1963, Ann. of Math.)によって,K/kに対するHNPへのObsはK/kのノルム1トーラスとよばれる代数群TのShafarevich-Tate群Shaと同型となり,このShaにはTの滑らかなコンパクト化Xのピカール群のガロアコホモロジーH^1からの全射がある(Voskresenskii, 1969). 特に,Tが(レトラクト,安定)有理的ならばK/kに対するHNPは成立する.15次以下の拡大K/kに対するTの有理性問題の研究Hasegawa-Hoshi-Yamasaki (2020)やDrakokhrust-Platonovの方法(1987)またGが散在型単純群M_{11}やJ_1の場合のHNPへのObsの計算結果について解説していく.金井和貴氏(呉工高専),山崎愛一氏(京大理)との共同研究.
  • 第95回 : 2023年11月24日 (金) 16:30--17:30
  • 場所 : Zoomによるオンライン開催
  • 講演者 : 深澤 知 (山形大学)
  • 題目 : グラフのガロア点について
  • 概要 : 代数幾何において、平面曲線に対するガロア点が次のように 定義されている(吉原1996): 曲線上の非特異点からの射影が呈する関数体の拡大がガロア拡大であるとき、射影の中心点Pをガロア点と呼ぶ。
    このとき、付随するガロア群は、Pを通る直線と平面曲線の交わりの点(ただしPを除く)に作用する。 ガロア点理論の重要な成果のひとつは、ガロア点の配置により、代数多様体の分類結果が得られていることである。
    本講演では、ガロア点のグラフ理論類似について考える。Baker-Norine (2007)により、グラフ上の因子の linear system が導入され、(有限)グラフのリーマン・ロッホの定理が証明されている。その後、代数曲線に対する種々の結果のグラフ類似が得られている。特に、浦川(2000)により導入されたグラフの harmonic morphism (及びその一般化)は、グラフ間の被覆のフルヴィツ公式を与えるのに用いられている。また、代数曲線のガロア被覆に対応する概念として、harmonic group action が Corry (2011)によって導入された。
    これらの道具(因子による linear system, harmonic group action)を用いて、本講演では「グラフのガロア点」を導入する。主結果として、完全グラフが「グラフのすべての頂点を使った因子に関するlinear system に対してガロア点が2つ以上ある」という性質によって特徴づけられることを説明する。
    以上の成果は、三枝崎剛氏(早稲田大学)との共同研究により得られた。
  • 第94回 : 2023年10月20日 (金) 16:30--17:30
  • 場所 : Zoomによるオンライン開催
  • 講演者 : 宗政 昭弘 (東北大学)
  • 題目 : PSL(2,q) の作用する 3-デザイン
  • 概要 : Bonnecaze-Sole (2021) は長さ 42 の拡張2元平方剰余符号の(最小)重み 10 の符号語全体が3-(42,10,18)デザインをなすことを計算機により確かめたが,この事実の理論的証明や,このデザインを含む無限系列は見つかっていない。講演者は粟田円佳氏,三枝崎剛氏,中空大幸氏との共同研究により,拡張2元平方剰余符号とその双対符号の和集合における(最小)重み 10 の符号語全体を考えると 3-(42,10,36)デザインが得られるだけでなく,他の重みに対しても 3-デザインが得られることを示した (2023)。講演者はその後,拡張2元平方剰余符号の(最小)重み 10 の符号語のサポートが,有限体 GF(41) における 4乗剰余の集合に射影特殊線形群 PSL(2,41) を作用させてできているという観察をもとに,計算機実験を行った。当初問題になっていた 3-(42,10,18)デザインを含むわけではないが,同様のアイデアで PSL(2,q) の作用する 3-design の無限系列が見つかったことを報告する。
  • 第93回 : 2023年9月15日 (金) 16:30--17:30
  • 場所 : 愛媛大学理学部2号館(数学棟)2階 大演習室(201) (対面開催のみ。参加をご希望の方は直接現地にお越しください。)
  • 講演者 : 土岡 俊介 (東京工業大学)
  • 題目 : Kanade-Russell予想の頂点作用素解釈
  • 概要 : (第一)Rogers-Ramanujan恒等式(分割定理)は、「隣り合ったパートの差が2以上のnの分割の個数は、各パートがmod 5で1,4であるnの分割の個数と等しい」という主張である。Kanade-Russell予想(2014年)はこれと似た主張で、「隣り合ったパートの差が1以下ならばそれらの和が3で割り切れ、2つ隣りのパートの差が3以上のnの分割の個数は、各パートがmod 9で1,3,6,8であるnの分割の個数と等しい」といった予想である。本講演では、Lepowsky-WilsonによるRogers-Ramanujan恒等式の頂点作用素解釈を参考に、D^{(3)}_4型アフィン・リー環のレベル3可積分表現でprincipal pictureの頂点作用素を用いて、Kanade-Russell予想が主張している「等しい」を「以上である」に弱めた主張を示す。また同じ考えをA^{(2)}_4に適用すると、mod 16の分割定理が得られることを紹介する(そのうちの1つは、イジング模型の研究からAndrews-van Ekeren-Heluaniが少し前に得ていたものである)。
  • 第92回 : 2023年6月14日 (水) 16:30--17:30
  • 場所 : Zoomによるオンライン開催
  • 講演者 : 大井 雅雄 (京都大学)
  • 題目 : Galois表現のSwan導手の関手的振る舞いについて
  • 概要 : p進体のGalois表現に対して定義される不変量の一つに,Galois表現のある意味での複雑さの度合いを測る「Swan導手」と呼ばれるものがある.Galois表現が与えられると,そこからたとえば外積や対称積などの線形代数的操作によって別のGalois表現を作ることができる.そこで,Swan導手がこうした操作の下でどう変化するか,という自然な問が考えられる.今回の講演ではこの問題に関して,2次の外積と対称積の場合に得られたいくつかの結果を紹介する.本講演はパリ・サクレー大のGuy Henniart氏との共同研究に基づく.