概要 : 代数体の拡大K/kに対して,至る所局所ノルム元によってKからの大域ノルム元が復元されるとき,Hasse norm principle (HNP)は成立すると言う.またそれらの隔たりを表す群はHNPへのObstruction (Obs)と呼ばれる.実際に,Hasse (1931)はK/kが巡回拡大の場合に,HNPは成立することを示した.K/kがガロア拡大の場合には,Obsに対するTate cohomology H^{-3}を使ったTateの公式(1967)がよく知られている.この講演では,拡大次数[K:k]が15以下の(非ガロア)拡大K/kに対するHNPへのObsの計算をK/kのガロア閉包のガロア群Gの分解群の言葉で実現した結果の紹介を行う:
A. Hoshi, K. Kanai, A. Yamasaki,
[HKY22] Norm one tori and Hasse norm principle, Math. Comp. (2022).
[HKY23] Norm one tori and Hasse norm principle, II: Degree 12 case, JNT (2023).
[HKY] Hasse norm principle for $M_{11}$ and $J_1$ extensions, arXiv:2210.09119.
小野孝先生の結果(1963, Ann. of Math.)によって,K/kに対するHNPへのObsはK/kのノルム1トーラスとよばれる代数群TのShafarevich-Tate群Shaと同型となり,このShaにはTの滑らかなコンパクト化Xのピカール群のガロアコホモロジーH^1からの全射がある(Voskresenskii, 1969). 特に,Tが(レトラクト,安定)有理的ならばK/kに対するHNPは成立する.15次以下の拡大K/kに対するTの有理性問題の研究Hasegawa-Hoshi-Yamasaki (2020)やDrakokhrust-Platonovの方法(1987)またGが散在型単純群M_{11}やJ_1の場合のHNPへのObsの計算結果について解説していく.金井和貴氏(呉工高専),山崎愛一氏(京大理)との共同研究.
第95回 : 2023年11月24日 (金) 16:30--17:30
場所 : Zoomによるオンライン開催
講演者 : 深澤 知 (山形大学)
題目 : グラフのガロア点について
概要 : 代数幾何において、平面曲線に対するガロア点が次のように
定義されている(吉原1996): 曲線上の非特異点からの射影が呈する関数体の拡大がガロア拡大であるとき、射影の中心点Pをガロア点と呼ぶ。
このとき、付随するガロア群は、Pを通る直線と平面曲線の交わりの点(ただしPを除く)に作用する。
ガロア点理論の重要な成果のひとつは、ガロア点の配置により、代数多様体の分類結果が得られていることである。
本講演では、ガロア点のグラフ理論類似について考える。Baker-Norine (2007)により、グラフ上の因子の linear system が導入され、(有限)グラフのリーマン・ロッホの定理が証明されている。その後、代数曲線に対する種々の結果のグラフ類似が得られている。特に、浦川(2000)により導入されたグラフの harmonic morphism (及びその一般化)は、グラフ間の被覆のフルヴィツ公式を与えるのに用いられている。また、代数曲線のガロア被覆に対応する概念として、harmonic group action が Corry (2011)によって導入された。
これらの道具(因子による linear system, harmonic group action)を用いて、本講演では「グラフのガロア点」を導入する。主結果として、完全グラフが「グラフのすべての頂点を使った因子に関するlinear system に対してガロア点が2つ以上ある」という性質によって特徴づけられることを説明する。
以上の成果は、三枝崎剛氏(早稲田大学)との共同研究により得られた。