愛媛大学代数セミナー

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2022年度の講演

  • 第91回 : 2023年3月24日 (金) 16:30--17:30
  • 講演者 : 渡辺 業(広島大学)
  • 題目 : Collatz予想のZ_2(二進整数環)への一般化
  • 概要 : Collatz予想とは, 1930年代にLothar Collatzによって着想された「自然数nに対して, nが奇数(resp. 偶数)ならば3n+1(resp. n/2)を対応させる関数を繰り返し適用したとき, 全ての自然数が有限回の操作で1に辿り着くか?」という未解決問題である. 現在では約10^20までの自然数が主張を満たしていることがコンピュータによって検証されているほか, 自然数上で関数を繰り返し適用したとき確率的には元より小さくなる値の割合が1となるということが証明されている(Terras, 1976). Collatz予想の関数では1に到達した後は1→4→2→1→...というサイクルとなるが, nが奇数ならば3倍とするところを奇数pを用いてp倍とした場合, 行先としてサイクルに入るかまたは発散するかという拡張された問題が考えられる. 例としてp=5とした場合は, 自然数上で関数を繰り返し適用したとき確率的には元よりいくらでも大きくなる値の割合が1となることが証明されている(Kontorovich & Lagarias, 2010)が, 発散することが証明された具体的な例は未発見である. そのほかにも関数の定義域をZ_2全体に広げた場合など様々な拡張が考えられている.
    本講演では, pをZ_2上の奇数とした場合のZ_2上のサイクルの存在可能性と逆に特定のサイクルをもつようなpの構成について, またpを既約二次方程式のZ_2上の奇数解とした場合に得られる具体的な発散する例及び確率的な議論を用いて得られる結果について解説したい. 
  • 第90回 : 2022年11月25日 (金) 16:30--17:30
  • 講演者 : 別宮 耕一(弘前大学)
  • 題目 : MOGを用いたGolay符号の表示方法について
  • 概要 : 誤り訂正符号のひとつである [24, 12, 8] 二元拡張Golay符号は様々な組合せ構造を結びつけるハブの役割をもつ組合せ構造であることはよく知られている。例のひとつとして,2022年のフィールズ賞を受賞したM. S. Viazovskaの業績にある最密な24次元の球充填構造は,このGolay符号から自然に構成される。
    また,MOG ( Miracle Octad Generator )とは,Golay符号の符号語を記述するために R.T.Curtisによって,1973年に考案されたもので,正方形を4行6列に並べた図形にアスタリスクを書き入れたものである。この簡単な図形によって,Golay符号の元のみでなく,Golay符号の対称性や,先に紹介した24次元の球充填最密構造の対称性を記述できることが知られている。
    本講演では,このMOGの機能を解説した上で,MOGを通して新たに得られたGolay符号の良い生成系をとおして,符号語の重みに関する情報が得られることを紹介したい。
  • 第89回 : 2022年10月21日 (金) 16:30--17:30
  • 講演者 : 籾原 幸二(熊本大学)
  • 題目 : 有理数体または二次体の元となる有限体上のガウス和の冪と関連する組合せ論
  • 概要 : 有限体上の「良い」ケーリーグラフや巡回符号を発見する問題は組合せ論における主要な問題であるが,その固有値や重み分布の計算は, 対応する部分(多重)集合の指標値の計算に帰着される. 特に, その指標値はガウス和などの有限体上の古典的指標和の線形和として表される. 例えば, 古典的に知られている具体的に計算可能なガウス和は, PaleyグラフやPeisertグラフなどの固有値や既約巡回符号の重み分布の計算(McEliece,1975)などに応用される.
    これらの研究に関連して, 比較的近年には, pureと呼ばれるガウス和の冪が整数となる場合や, 乗法的指標の位数を法として体の標数の累乗のなす群が指数2となる場合のガウス和の特徴づけが行われている. 特に後者の場合は, 対応するガウス和のある冪が二次体の元となることが知られている. 今回は,これらの研究の共通の一般化として, ガウス和の冪がいつ二次体の元となるかの特徴づけを行ったので報告したい.
  • 第88回 : 2022年9月2日 (金) 16:30--17:30
  • 講演者 : 野崎寛(愛知教育大学)
  • 題目 : 整数環の素イデアルを用いたs-距離集合の上界の改善
  • 概要 : ユークリッド空間の有限集合Xで,互いに異なる2点間の距離の種類がs個のとき,Xをs-距離集合という。s-距離集合の元の個数には,ある自然な上界があり,元の個数が最大であるs-距離集合を決定することが主問題となる。最大なs-距離集合の決定には,良い具体例の構成と上界の改善が必要である。Xの距離が整数しか現れないとし,ある素数pを法として,距離の個数がr個(r < s)となるとき,既存の上界が改善できることが知られている[Blokhuis(1983)]。
    本講演では,この定理を代数体の整数環とその素イデアルへ拡張する。また与えられた上界を達成する例についても紹介したい。講演の前半部分では,s-距離集合について,関連する数学的対象や代数的組合せ論(主にデルサルト理論)における位置づけについて概説したい。
  • 第87回 : 2022年7月1日 (金) 16:30--17:30
  • 講演者 : 中筋麻貴(上智大学)
  • 題目 : Schur $P$型,Schur $Q$型 多重ゼータ関数の導入
  • 概要 : Schur多重ゼータ関数は,Euler-Zagier型多重ゼータ関数の一般化 として導入された多重ゼータ関数で,Schur関数の組合せ論的表示と類似構造をもつ.先行研究において,この関数のJacobi-Trudi型の行列式表示をはじめとするいくつかの行列式表示やPieri型公式といった組合せ論的性質を得ることができ,組合せ論的観点からの多重ゼータ関数論の研究に貢献している.
    本講演では,このSchur関数の組合せ論的表示の観点に着目し,Schur多重ゼータ関数の紹介からはじめ,新たに,Schur $P$関数,およびSchur $Q$関数の組合せ論的表示と類似構造をもつ多重ゼータ関数の導入と挙動の考察結果について紹介する.特に,Schur $Q$型の多重ゼータ関数については,Pfaffian表示を得たので,これを報告する.本講演は,武田渉氏(東京理科大学)との共同研究に基づく.
  • 第86回 : 2022年6月24日 (金) 16:30--17:30
  • 講演者 : 斉藤朝輝(公立はこだて未来大学)
  • 題目 : 区分的線形写像を含む区分的1次分数写像の真軌道計算と, その擬似乱数生成への応用
  • 概要 : 倍精度浮動小数点数などの固定ビット長の数表現を使って力学系のシミュレーション(軌道生成)を行うと,丸め誤差などの数値誤差がシミュレーション結果に混入してしまう.このことは,初期値鋭敏性を特徴としてもつカオス力学系のシミュレーションにおいて,特に深刻な問題となりうる.この講演では,適切な次数の代数的数を用いることにより,有理数係数の区分的1次分数写像(区分的線形写像を含む)の真軌道を計算する方法について紹介する.また,この方法をBernoulli写像や連分数変換など,従来法ではシミュレーションが困難だった写像に適用し,これらの写像の典型的な軌道と同じ性質を示す真軌道が十分長く生成できることを報告する.さらに,この方法の擬似乱数生成への応用についても紹介する.
  • 第85回 : 2022年4月22日 (金) 16:30--17:30
  • 講演者 : 戸次鵬人(慶應義塾大学)
  • 題目 : Heckeの積分公式のコホモロジー論的解釈とゼータ関数の特殊値について
  • 概要 : 実2次体のゼータ関数の特殊値は,モジュラー曲線上の閉測地線に沿ったEisenstein級数の積分として書けることが,古典的なHeckeの積分公式によって知られている.このような積分公式には様々な拡張やコホモロジー論的解釈が与えられており,豊富な応用を持つことが知られているが,その多くは,総実体のL関数の臨界値に関する事柄となっていた.本講演では,Heckeの積分公式のコホモロジー論的解釈をより一般の代数体の非臨界値も含む場合に拡張する試みと,現在得られている結果について,背景なども含めて解説したい.